トン先生のコラム  徒然 その5


2 医の倫理、若い医学生に言いたいこと

 先日、学会で話題になっていたことがあります。医学部を卒業して、どの科を専攻するかという場合、最近の医学生の人気は形成外科だそうです。入局希望の上位3位内に入るということでした。
 なんで、そんなに人気があるかというと、現在の美容外科、アンチエイジングブームが背景にあることもその一因であると考えられます。反対に脳神経外科、小児科、産婦人科などを希望する医学生は極端に減っているということでした。過酷な労働条件が人気のない原因だということでした。

 僕が医学部を卒業する際に、専攻する科を決める時はどうだったろうかと思い起こしてみると、外科系では一般外科を希望する学生が多かったと記憶しています。その頃、一般外科は外科系の花形でしたから、学生の志望にも時代時代の変化があるものだと感心させられます。

 僕は、自分が何を専攻するかという場合、判断基準としたのは、まず、自分の適性がどうであるかということでした。まず、内科系か外科系かの判断がポイントです。
 小さい頃から手先が器用であるのは分かっていましたし、割りに楽天家、そして、ウジウジ悩んでいるのは性に合わないということで、外科系を選びました。
 そして、その中で、整形外科はどうも力仕事が必要なようですし、僕の体力ではちょっと無理かと思い、また、耳鼻科も穴の中を覗いてばかりのようでちょっと興味が湧かず、その他、産婦人科、脳神経外科、なども様々な理由でどうも性に合わず、出来るならクリエイティブなことをしたいと思っていたので、最終的に選んだ科は形成外科でした。
 そして、その時に考えていたのは、これからの医療はきっと病気にならないようにする予防医学や一般の健康な人の生活をもっと豊かにする(クオリティーオブライフを高める)医療がどんどん発展するのではないかと考えていました。美容手術などによってその人が幸せになれるお手伝いをすることもしてみたいと思っていました。

 そのためには、東京で第一線の形成外科に入局し、早く一人前になりたいと思っていました。
 しかし、その時の僕の考えが正しいのかどうか分からなかったので、その頃形成外科の草分けである大森誠一先生のご意見をお伺いしたいと思いました。
 電話で何度も何度もその理由を言って、やっとの思いで先生に面会が叶いました。やっとお会いできると、とても嬉しかったのを今でも鮮明に覚えています。

 先生に、"形成外科は忙しいぞ!そしてこれからもっと忙しくなる。本当にやる気があるのならやりがいは十分ある"と教えて頂き、また、自分の考えも間違っていないと判断して、形成外科を一生の仕事としようと決断しました。以上、僕が形成外科を志した経緯です。

 東京女子医大形成外科医局時代は、1ヶ月に3日ほどしか家に帰れず、常に、病院にいて仕事をし、教師である父の生活とは全く違うのに違和感も覚えました。いったい僕らの労働基準法はどうなっているんだろう?と思いながら、疲労、寝不足と戦いながら仕事をしていました。時給は計算してみると50円くらいでした。
 しかし、早く一人前になりたいがため、手術をさせてもらいたいがために、徒弟制度の中でひたすら仕事を覚えようと日々努力していたことは確かです。今は、インターン制度で医師の労働条件はずいぶん改善されたようですが、基本的に職人気質を必要とする外科系ではある程度そういう時期は必要であろうと考えています。仕事を教えてもらうには、先輩の言うことを聞くしかないからです。

 学会で聞いた話によると、最近の医学生が、形成外科を希望する場合、医局の先生に、"形成外科は儲かりますか?"と質問をすることが多いそうです。これを聞いて、僕は本当に心から残念に思い、がっくりしてしまいました。
 もちろん、お金も大事ですが、一番大切なのは患者様が治ることです。治った患者様が「有難うございました。」と言って下さる瞬間に、この仕事をしていて良かったと思えるのであって、その結果として収入があると考えているからです。
 僕は金儲けをしようと思って医者になるべきではないと考えていますから、そういう安直な医学生が増えることは本当に怒り心頭なのです。"医は仁術"="思いやりの医療"というのは、時代が変わろうとも決して変わらない不変の真理だと考えているからです。さらに言えば、人生の本質は"仁"にあると考えているので、これに反することは絶対に長続きするわけも無く、この大切なところをきちんと信念として持っていないがために、拝金主義が横行し、おかしな事件も起こる世の中になってしまったのだと考えています。

 これから頑張っていく若い医師に言いたいのは、やはり、医者というのは、実は、昼夜も休日もないほど忙しく、あいまいを許されず、すべて患者様のためにある職業であり、拝金主義とは対極にある職業であることを肝に銘じて欲しいということです。お金を追い求める人は、必ずお金に逃げられます。

学会などで会う先生がいやな言葉を発します。"儲かっているみたいじゃないか!"僕の一番嫌いな言葉です。 (2007.4.29)

←3 室生寺 1 枝垂桜→