トン先生のコラム  医者になって学んだこと

沢山の患者様を治療させてもらっていくうちに、沢山のことを学びます。
医者という人間相手の職業から得た真理をすこし語ってみたく思います。
1 相乗効果
 人の体は、本当に杓子定規にいかないものです。治療を一生懸命しても、どうした訳かうまく治らないことも沢山あります。何とか色々あの手、この手を考えて病気を治療しようと思うのですが、それでもうまくいかないこともあります。これとは反対に、ほんの少し治療しただけですぐに治ってしまうことも沢山あります。一見不思議に思うのですが、その中にでもそれぞれの共通点があります。
*うまく治療が進むとき
  医師と患者様の信頼関係がしっかりしている
  患者様が医師の治療方針を理解し、疑い無く治療をしてくれるとき
  医師の一生懸命さが患者様に伝わるとき
  治ると信じているとき
*うまく治療が進まないとき
  患者様が治療方針に疑いを持っているとき
  薬などをきっちり飲んで頂けないとき
  薬のことなどを本で一生懸命調べてご自分で判断し、治療してしまう場合
  ご自身が治そうという気持ちに欠けるとき
  自分勝手で、態度が大きくワガママな患者さんの場合
  などです。
 治療には、患者様と医師の信頼関係が最も大切であるということでしょうか。信頼関係は、患者様の体の免疫力を高め、病気が治る方向に導いてくれます。
人間対人間ですから、縁も相性もあります。患者様が自分にあった医者を選ぶことが大切です。医師は、患者様を選ぶことは出来ません。ただ、自然の流れで何となく相性の悪い患者様とは治療がうまく行かず、患者様の方から離れていくようです。これは、人の付き合いと良く似ており、考えてみたら万人に良い医者などいるわけも無いのです。医師の態度としては、謙虚な気持ちで患者様と接し、一生懸命患者様の事を思って、熟考し、何とか早く治ってくれるように願いを持って診療にあたることも大切ですが、時には、厳しく、治療方針を曲げないことも大切であるように思います。ワガママではなく、医業の道での専門職なのですから、経験と技術に基づいた治療を心がけるべきだと思っています。
 融通、匙加減、良い加減、ボチボチ、だましだましなど、もともと日本人が得意とした灰色の部分です。人間は杓子定規には行かないので、治療にはそういう部分も必要であることは確かなのです。こういった意味で医師という職業は、医師としての経験、技術の習熟はもちろんのこと、人間としての徳を持ち合わせた人格者であることが求められる、厳しく、難しい職業であるといえます。(2001.10.1)
2 早期治療と好循環、悪循環
 先の話題とも共通することなのですが、治療していますと本当に不思議なくらいトントン拍子に治療が奏効し、病気が治ることがあります。これに反して、初期の診断、治療が良くないために、どんどん悪いほうに行ってしまい、治るのにずいぶんと苦労する場合があります。例えば、こんなこと。
 ある患者さんです。
お尻にできものが出来て、赤く腫れて痛いと思っていたのですが、こんなものは自分で薬をつけて治そうと市販の薬で治療していました。仕事が忙しいこともあったのですが、どんどんできものは大きくなり、当クリニックにいらした時は、10センチくらいのできものが大きく赤く腫れあがり、痛くて、椅子にも座れず、眠れもしない状態でした。膿を出して、抗生物質の注射、内服をし、なんとか炎症は治まりましたが、治療期間は、3週間を要し、患者様が辛い時期は、なんと7週間にも及ぶこととなりました。
この治療の場合、腫れ始めのせめて1週間以内に病院に来てくれていれば、1週間で治すことが出来たでしょう。つまり早期治療が最も大切で、治療期間も少なくて済み、悪循環に陥らないようにすることがとても大切なことといえます。
 一般的に好循環にするか悪循環に陥るかの差は本当に微妙な差であると思っています。ほんの少しのことで悪循環の芽が出て、あっという間に育ってしまうことも珍しくありません。僕は院長であると同時に小さなクリニックではありますが経営者でもあります。
 開業当初から続けていることがあります。毎朝、8時30分よりの10分間のミーティングです。これは開業当初から欠かしたことがありません。このミーティングの意味は、昨日あったこと、今日の予定を含めて検討し、少しでも問題があれば早い対処を可能にするためのミーティングなのです。つまり、悪循環の芽をすぐに断ち切るためのミーティングなのです。これを持続することによってトラブルがあっても早期に解決し、悪循環に持って行かないようにする。たった10分のことでも継続は力なりなのです。
 確かに経営は難しいものです。特に、今日の世界不況、米国の多発テロ、株価の大暴落、など経営者にとってとても難しく多難の時代です。しかし、難しいと頭を抱え込んでいても何も物事は解決しません。こういう時ほど、出来ることしか出来ない、当たり前のことしか出来ないと割りきり、頭を切り替えて、当たり前のことを当たり前にする努力が大切なのだと思っています。そして、それを継続することだと思っています。好循環を求めるのではなく、悪循環にならないように地道に努力することが今の時代に一番求められているような気がしています。(2001.10.1)
3 流れるものは清浄である。動いているから正常である。
 赤い血が人間の体に流れています。体のある部位が、細菌感染などによって化膿すると、人間の体はそこに血液を沢山送ってばい菌をやっつけようとします。沢山の血液が流れることによって、白血球、免疫細胞などがその部位に集まり、ばい菌をやっつけてしまうのです。見た目にはその部位が赤くなり、腫れて痛みも感じます。これは健康な状態ではなくて病気の状態です。
 また、足の静脈瘤、痔などは、静脈血がうっ血し、流れが滞る状態で、これもまた病気です。冬場におこるしもやけなども循環障害です。
 関節は、動かしてあげて正常に機能します。骨折などでギブスを巻いた関節は、動きが鈍くなり、いざ動かすに痛みが伴い、リハビリで苦労した経験のある人も多くいらっしゃるのではないでしょうか?動いているから関節は正常なのです。50肩などは、痛くても、関節を動かして、血液循環を良くし、痛みに向かっていく治療をしないと関節が動かなくなってしまいます。
 つまり、血液は流れていて正常な状態、関節は使っていて正常な状態なのです。流れ、動きがが滞ると異常なのです。人間の体は動かしていて正常なのです。動きがなくなった時に病気が起こってくるのです。動くものは正常なりというところでしょうか。
 こういうう風に考えると、そこにはまさに生きる真実があります。
 生きるということは前に進むことだと思っています。
時には、立ち止まること、ちょっと後戻りすることもあるでしょうが、また、再び前に進むということなのだと思っています。そのペースは、適当なペースです。人間本来の歩くペースが適当だと僕は思っています。早すぎても遅すぎてもだめなのです。車、電車、飛行機などの早いペースではなく、普通に歩くペースです。
 これは自然界にも共通することです。
地球は動いています。季節は変わります。移り変わるから正常です。川は流れていて清浄で、溜まると水は腐り始めます。すべてのものはある一定の流れで恒常状態を保っています。このペースなのです。無理に早くしたり、遅くしてはいけません。あるがままのペースを維持することが最も大切であると考えています。これもまた、医者という仕事から学んだことなのです。みんなが同じペースでなくてもかまいません。それぞれの自分が一番適当だと感じるペースを自覚して生きることが大切であると考えています。ご縁という言葉がありますが、縁は、ペースが同じであることが前提で起きてくるような気がしています。皆様の考えは如何でしょうか?(2001.10.10)
4 医者は体力勝負!
 もちろん、頭も使いますが、基本的に体力がないとやっていけない職業です。労働基準法など適応にならないところが大変な仕事でもあります。体力7割、頭3割でしょうか。
5 形成外科医、美容外科医は外科医の中でも特に手先の器用さとセンスが要求されます。
 誤解を恐れずに言いますと、ただ好きだからといって、形成外科医、美容外科医にならないほうがよいと思っています。不器用では、患者様に迷惑であることを自覚すべきであると考えています。
6 美容外科医はいつも人の顔を観察することも必要です。
 このことによって美的感覚を磨き、仕事に美意識が反映されます。日常にもそういう心がけが必要ということです。美しいものを見て美しいと感じる心が大切です。
7 当たり前ですが、手術に一番大事なのは、いつも良い結果を出すことです。そのために恒常心、自己コントロールが必要とされます。
 手術をする医者は、いつも同じ結果を出すことを目標にします。うまくいった、いかないがあってはならないのです。いつもうまくいかなくてはならないのです。それが手術というものです。手術の熟練度とは、高いレベルで、いつも変わらない結果を出せることをです。非常に厳しいことです。
8 医師は、常識人、健康人であるべきです。
 専門化が進む現在ですが、一般常識が欠如している医師が多くなって来ているような気がしています。常識と言うよりは、当たり前のことが出来ない、しないといった方がよろしいでしょうか。おはよう、こんにちは、さようなら、ごきげんようなどの挨拶さえしないふとどき者に患者様を診る資格なんか無いのです。だから、病気を診て患者様を診ていない、手術は成功したが、患者様はお亡くなりになったなどと言われるのです。患者様が診察室に入ってこられたら、まず、おはようございますの挨拶から始めるのが当たり前です。さらに、医師は精神的にも肉体的にも健全であることが基本だと思っています。
9 治らない病気も沢山あるのです。わからない病気も沢山あります。
 医学は、魔法ではありません。治らない、分からない病気も沢山あります。治すのに時間がかかる病気もいっぱいあります。一生つきあっていかなければいけない病気もあります。
大切なのは、あきらめず、患者様を励ましながら治療していくことだと思っています。そこには、医師がどうのこうのというよりは、人間としての根本的な"すべての命を大切にする優しさ"を持って治療にあたることが必要であると思っています。
10 集中力
 何事にもそうなのでしょが、集中力というものは、成功の根幹をなすものだと思っています。努力する集中力がないと物事は始まりませんし、人の共感を得ることもできない。
成功もできません。すべてのものの根本は、努力、集中力だと考えています。あとは、神頼み、仏頼み!